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中国の夢は実現するか?(2016/8/1

中華文明は老いた文明か?

 

激動の年になるという展望を2016年初に評論家たちが述べた。その後期に入って1か月が経った。評論家たちは、2016年は中国、韓国、が没落し、EU、中東が混乱し、ロシアが困窮し、イスラムによる大規模テロが頻発するという、第二次世界大戦後の世界の枠組みの組み替えが更に進む年になると言った。その通りに世界は展開している。英国がEUから脱退を決めたし、中国が南シナ海の岩礁群を占拠し、国際仲裁裁判所の判決を無視し、東シナ海にも版図を拡張しようとしている。米国はどうやら日米安保条約があっても日本の代りに中国と戦戦火を交えるつもりは無いようだ。日本は米国頼りの太平の夢から覚めさせられているが、その自覚は未だ薄い様だ。

 

経済学者も政治学者もジャーナリストも発生した事件の背後にある現象を説明していて、それは情報として貴重なのだが、それだけでは不足だ。事件を構成する人間の行為の背後にはその人間の思想や文化があるからで、それらを明らかにしなければ事件も問題も根本的には解決しない。以前このブログで一旦「文明が老い」たら回復は困難だと書いた。それを更に考えてみたい。

 

4大文明の発祥地域も、ローマ帝国もペルシャ帝国もいずれも過日の面影は無い。覇権の推移としては、近世ではスペイン+ポルトガルから英国へ、近代では第一次世界大戦の敗戦国(オーストリア、ベルギー)から勝利国(独、仏)への推移が見られる。第二次世界大戦後は米国が英国に替って世界の覇権を握っている。ギリシャはローマ帝国やペルシャ帝国の一部から独立したが2年に1度破産している。ユーロに加盟してもこれは変わらない。

 

アラブ世界では、十字軍との戦闘での敗戦の過程で回教の指導者達はその教えに基づく文化を変容させてしまったらしい。現在の混乱は明らかにその帰結(Consequence)に見える。

 

ギリシャはローマ帝国やペルシャ帝国に征服された。例えば、2007年のアメリカ映画「300」は侵攻して来た100万のペルシャ軍を迎え撃つスパルタの決死隊300人の運命の物語だ。彼らは70年前の日本軍の特攻隊も斯くや、と思わせる。異民族に征服された民は支配者に心から服従せず、自分達で通用する経済、即ち地下経済を形成しようとする。現在のギリシャ経済の惨状と地下経済の浸透度とは対照的だ。

 

イタリアやスペインなどの地中海諸国は少し事情が違うが、ローマ帝国が衰退しカソリックが普及する過程で中東を起源とする帝国の影響を受け徐々に自国の支配者に対する忠誠と熱意を失って行ったのではないか?イタリアもスペインも地下経済の大きさが、脱税率と失業率の高さが目立つ。

 

第一次世界大戦で敗北したオーストリア、ハンガリー辺りはどうか?帝国と民族を分断され、東欧の大人しい良い子のままの様だ。トルコはかっての帝国を再現したい様子だ。

 

翻って日本はどうか?日本の本格的世界史デビューは1894年の日清戦争に始まる。その後韓国併合、日露戦争、大東亜戦争と敗戦に続く。その後GDP世界第2位の数十年間を実現している。アジアの他国とは歴史が全く違う。何故か?日本は江戸時代末まで現在の本州四国九州が“天下“であって、一度もその版図を外国に占領されたことが無く、形式的にせよ天皇の王朝が2000年続いた。先の大東亜戦争敗戦で歴史上初めて異民族に支配されたが天皇の王朝は継続した。これは世界史的に見て奇跡と言って良いほどで、このお蔭で日本は一国で1つの文明圏を形成することができた。この為公に対する国民の信頼度は極端と言っても良いほど高い。

 

中国は5千年の歴史を標榜するが、実態は異なる。三国志の時代戦乱の為人口が1/10に減少し、周辺の遊牧民が何度も中原を征服し唐や清などの王朝を建てた。この過酷な歴史をイメージするのは日本人には難しいが、アメリカでインディアンが虐殺され尽くし白人の国になった歴史からイメージすれば良い。だから、中国の歴史は高々70年である。

 

何度も征服されればどうしても「公」に隠れて「私」の集団(一族郎党)で安全を保障しようとするし、科学や哲学の「真理探究」などそっちのけで、その場だけを凌げれば良いという文化になる。現代の中国でも「上に政策あれば下に対策あり」という社会になっており、当然隙あれば抜け道を探し一族郎党を守ろうとする。美しい中華思想などというものは既に無く、在るのは力によるサバイバルゲーム術だけだ。

 

孫子は世界最高の兵法書として世界中で尊重されているが、孫子後の中国が何度も異民族に征服されたという事実を鑑みると、「強兵に勝るものはない」に帰結する。現代の強兵は兵器開発を支える科学技術力と資本力で構成する。ネジやボールペンの芯の様な基礎部品1つ完全には作れないし、共産党指導層の親類縁者の資産はとっくにウォール街の管理下にあるからだ。

 

中国は習近平が「中国の夢」を掲げ、アヘン戦争前の覇権を取り戻そうとしているが、プロパガンダだけが先行している感じだ。軍事力を増強し東シナ海を我が物にしようとしているが、貨幣経済と軍事技術を先進諸国に押さえられているので、どこまでトリックが通用するか見ものだ。結局中国は孫子の「兵は詭道」に従うことになるだろう。

 

現代の兵力は経済力に依る。中国の経済力が外資による資本と技術の導入に依る以上、「中国の夢」は夢のままに終る、ということだ。

 

更に言えば、「他国に占領された為に自民族の文化が棄損し変質させられ、二度と覇権が取り戻せないようになった過去の文明国がどんなに多いか」ということだ。日本はどうなるのか。