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image001日経新聞デジタルサミット2018に寄せて(2018/5/15

第5世代コンピュータの失敗を繰り返すな

 

日本経済新聞社が6月4,5日 に「世界デジタルサミット 2018《を開催し、そのライブ中継を見た。テーマは「シンギュラリティへの挑戦《。(詳細はhttp://www.digital-summit.jp/2018/streaming.html 参照。その動画アーカイブは後日公開の予定)その感想を以下に述べる。

 

「シンギュラリティ(技術的特異点)《とは人工知能(AI)が今後も性能向上を続けた結果コンピューターの能力が人間の頭脳を超える時点のことで、2045年にもそれが訪れるとの予測がある。この予測者が2045年にどういう事態になることを想定したのか知らないが、筆者はAIが流行語(buzz word)になる以前の2010年ころからハンガリーのAI(機械学習)ソフトのビジネスを日本で立ち上げた実績から言うと、シンギュラリティは部分的に発生するのであって、2045年に社会全体がSF映画が描くような悲惨な未来になる訳ではない。

 

何故なら、AIエンジンが効果的な情報を利用者に提示するにはそれに相応しい情報をAIエンジンに提供し続けなければならない。どの様な情報を与えるかはAIエンジンをどの様な目的に使うかを先ず人間の側が定義し、それに必要なデータを収集しAIエンジンに入力する流れを作らなければならない。AIエンジンがどの様に成長するかはどの様なデータ(餌)を与えるかに依る。逆に言えば、良質なデータが無ければAIエンジンは使い物にならない。筆者が立ち上げたAIアプリケーションの1つは誰にどのレストランを推奨したらベストかを特定するかであって、これによってレストランの訪問率が20%ほど上がった。AIエンジンはこの様に個別なニーズに応える形で普及し、それが有機的に連携して広まってゆくだろう。

 

「シンギュラリティへの朝鮮《は「AIが近い将来人間の仕事を奪って大変なことになるから今のうちに対策を《という、一般聴衆の注意を惹くためのコピーとして良くできた表現だとは思うが、問題は、日経に限らずマスコミが、AIの仕組みを情緒的に訴える負の側面だ。文科系出身の多いマスコミは総じて科学技術について見識が乏しく、視聴率を稼ごうとして情感に訴える番組作りをし、視聴者をミスリードする。かつてのN放送局によるスタッフ細胞や善玉/悪玉コレステロール報道がその典型例だ。

 

筆者がAIエンジンのビジネスを始めた理由の一つは、2010年ころの日本の人工知能学会の活動を調べ、それがかなり低調であり、研究成果がハンガリー社に比べて世界の最先端でもなかったので、日本のAI技術と差別化できると判断したからだ。だが、その後“AI”は急速に流行語化してマスコミでもネットでも騒がれるに至っている。展示会でAI製品を紹介している企業のブースで説明員に質問すると統計処理に毛の生えた様な製品をAIだと称していたりする。どうも日本では第五世代コンピュータの熱狂と挫折の後地道なAI研究から目を逸らし、IBMdeep learningbreak throughして以来急速にAIに注目し出したようだ。

 

だが、高度の数学とITの技術を要するAIなどの技術者は一朝一夕には育たない。数学とITの適正と素養のある若い技術者が世界のAIの学会での論文を読んで消化し、対象とする適用領域にAIエンジンを導入して先に述べた方法でそのAIエンジンを育てて使えるものにするのに10年はかかるだろう。海外のAI有力企業や研究所と提携したり買収すれば10年賀5年になるかも知れない。日本はこういう技術者の層を厚くして米国や中国に伊してゆくことに成功するだろうか?

 

懸念は、AIを振興しようとする日本の指導者層がAIの表層だけでなくその構造を理解した上で振興の具体策を策定し実施できるかだ。1982年に始まった第5世代コンピュータプロジェクトは人工知能マシンを作ろうという意欲的なプロジェクトがったがさしたる成果も出さずに終了した。筆者も当時その熱気に影響されてLISPを勉強したものだった。これは技術の現実を知らない霞が関の誰かが夢を見て突っ走りマスコミが盛んに吹聴しただけだったから失敗は当然だった。この失敗を繰り返してはならない。何故なら、AIこそ日本の核となるべき情報産業の中でも最も国力の源泉となる技術だと思うからだ。